今年の冬の厳しさは例年の比ではなく、節分を過ぎても一向に暖かくなる気配が無い。寒さのせいだろうか梅の便りもなかなか聞かれない。とうとうしびれをきらして、神代植物公園に梅を訪ねてみた。
2月5日、節分の翌日の日曜日、玄関に撒かれた豆を踏みつぶさないように気をつけてドアを開け、階段を降りるとなんと外は白い雪景である。不覚にもレースの窓カーテンを閉めたままだったので、表に出るまで全く気付かなかった。ところが、空は抜けるばかりの紺青で、陽も暖かい。が、風は手袋をはめた指先が凍えるような冷たさだ。このところずっと寒さが続いている。梅はまだかも知れない。
ふくらみ始めた梅の蕾をぎっしりとつけた枝例年であれば、この時期には電車の窓から沿線の梅が楽しめる。畑の隅や、住宅の垣根越しに咲く白や紅色の花などが飛び去っていくのを忙しく眺めているうちに、目的の駅にあっという間に着いたりする。然し、今回は目にとまるのは枯れ木立ばかりだった。
深大寺側から植物園に入り、右手に曲がると梅園だ。冬の公園は訪れる人も少なく静まりかえっている。私と一緒に門を入った2人連れも同じように右にまがり足早に梅園を目指している。公園入り口の案内には「2月初めから梅祭り、甘酒もあります」とあり、今年の梅は遅れているとの情報はあったものの、少しくらいはと期待していたのだが、梅園は遠目にも花の気配が全く無い。
形良く刈り込まれた大きな梅の木は枝一杯に蕾がついていて、満開になればさぞ見事だろう。しかし、蕾ばかりで花はみつからない。
一輪だけでもと、丹念に日当たりの良い枝を探して歩く。蕾がまだ固いままの木が何本か続いた後、ふくらみ始めた白い蕾をつけた木に出会った。名札を見ると「白難波」とある、早咲きの白梅だろうか。前を歩く2人連れは、「まだ、早過ぎたわねぇ」と言葉を交わしながら通り過ぎて行く。が、開いたばかりの一輪が鮮やかに目に飛び込んできた。
梅一輪熱心にカメラを覗き込んで一番咲きの花の姿を確かめていると、「ほぉ~、一輪だけですか。咲いていますね。」と、声をかける人がいる。顔をあげると、初老の帽子をかぶった紳士が同じ花を愛でている。もう一度花をじっと見つめてから「ここは、日当たりが良いですね。」と付け加える。「ええ」と相槌を打ち、会釈をして梅園の奥の方へ歩みを進めて行くその人を見送りながら、花をいとおしむ様に見ていた優しい目と何気ない会話に心が温かくなるのを感じていた。
冬が厳しいほど、来る春の梅も桜も一段と鮮やかで艶やかだったことが幾度となくあった。この春の花が楽しみである。