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ピン甘日誌 - 20
 ■ イトトンボ? 7月15日

イトトンボを撮りたいと ふと思ったのは去年の夏のことだった。

もう50年以上も前まだ小学生のころ、その夏は取り分けイトトンボ捕りに夢中だった。輝く透明な羽根を持った糸のように細いオレンジや青色の体の小さなトンボを草を分けながら追いかけ廻した。スーッ、スーッと飛ぶイトトンボが、一休みと羽根をたたんで草に止まったところを、後ろからゆっくりと手を延ばし羽根をそっと夾んで捕まえた。その記憶が郷愁のように蘇ってきて、今度はあの輝く羽根と鮮やかな色彩をファインダーで捉え、カメラに収めたくなったのだった。

それは、去年クラブとんとんで拝見した関西にお住まいの「天文中年」さんが撮られたイトトンボの写真が引き金だったようで、年が変わり春4月となり天文中年さんのブログ「天文中年の部屋」に「トンボ王国星の池」で撮影された色鮮やかなイトトンボがアップされたのを目にするや、まるで強迫観念のように「今年こそイトトンボを撮る」との想いが心の中に渦巻き始めたのだった。

カワトンボ-11.初めてのカワトンボ

小さな身の丈3センチ足らずのイトトンボを少しでも大きく撮ろうと、望遠レンズ(サンヨン)に1.4倍テレコンをつけたカメラ片手にあちこち探しながら歩き回った。

イトトンボは何処にいるのだろうか。トンボの仲間だからヤゴから羽化するに違いない、ヤゴは池や川で育つから水辺を探せば出会えるに違いないと、下手な三段論法を頼りに住んでいる近くの用水路や公園の池に何度となく足を運んだ。然し、何故か出会えない。関東のこの辺りでは4月は時期が早すぎるのだろうか。そう言えばまだトンボも見掛けていない。4月はのろのろと一匹のイトトンボにも出会えないまま終わろうとしていた

夏が過ぎれば、いよいよ山口に戻る事になる。引っ越しの事前準備を兼ねてゴールデンウィークは山口で過ごすことになった。

今までに何回か「イトトンボを撮りたいけど見つからない」と家内にも独り言のように話していたので、「カメラ持って行くの」と聞かれた時には「イトトンボが撮りたい」と返事した。

写真を撮りに一度家をでたら半日以上は帰らないので、この返事を聞いた時、家内は引っ越しの準備には余り私を頼りに出来ないと思ったようだった。まあ、一日中家にいてもたいした助けにはならないのだけれど。

ところで、イトトンボの話をしているのに、カワトンボの写真が載っているのは何故?とお思いではないだろうか。実はイトトンボと思って意気込んで撮ったものの、昔に見たイトトンボよりかなりサイズが大きい。50年の間でイトトンボが大きくなるはずもない、果て? と思い調べてみると、イトトンボではなくカワトンボと判った次第なのです。

ミヤマカワトンボ2.羽を拡げるミヤマカワトンボ

4月末に山口に戻り、早速イトトンボ探しを始めたが、最初の2日は空振りだった。3日目、朝起きると直ぐに着替え、近くを流れる小さな川に向った。川に沿ってトンボを探しながらゆっくりと歩を進める。私が辿る川沿いの道は護岸壁の上の細いあぜ道で、あぜ道を夾んだ川の反対側は田起こしを終えた田んぼが続いている。川はあぜ道の下2メートル位を流れていて、古いコンクリートの護岸壁の水際には、流れに沿って緑の雑草が根を下ろし初夏の光をはね返している。水量はさほどは多くないのだが、川中に転がっている石に狭まれて速い流れつくったり、少し川幅が拡がると澄んだ浅い小石混じりの川底を見せながらゆっくりと流れていて、時折小さな魚影がススーッとその川底を横切ったりしている。

川を覗き込んだり、あぜ道に咲く紫色のカキドオシなどを見やりながらゆっくり進んでいくと、川面に突き出した草の上からフッと飛び上がり、ヒラヒラと飛んで、少し先の草の上に留まったものがいる。近づく私に驚いて逃げた様子だ。

カワトンボ-23.キツネのボタンとカワトンボ

驚かさないように、逸る気持ちを抑えゆっくりと近づきカメラを向けると、ファインダーに飛び込んできたのは、細い緑の体に透明な羽を持った美しいトンボだ。とうとうイトトンボとめぐり逢った!? 体つきはイトトンボと同じだが、体長が記憶より大分大きい。イトトンボはこんなに大きかっただろうか?

家に戻ると、朝食を摂りながら早速家内に「イトトンボが下の川にいたよ。なんかチョット昔みたのより大きいみたいなんだけど」と報告した。いつもなら素っ気無い家内がこの時は「撮れたの!良かったわネ」と相槌を打ってくれたのが嬉しい驚きだった。

翌日、また同じ場所を訪ねたが今度は10時過ぎ、朝の涼しさから昼へ向かって気温が上がる時間を狙って出かけた。前日朝早く着いた時より帰りがけの方がトンボの数が増えたように感じたからだ。着いて見ると、確かに昨日よりトンボの数が多いようだ。

ミヤマカワトンボ-24.ミヤマカワトンボ-2

暫くカワトンボを撮っていると、羽が茶色のトンボがヒラヒラと飛んできた。体長もカワトンボより大きい、昨日図鑑でみたミヤマカワトンボだろうか。遠くを飛んでいてなかなか近くに来ない。草の上に留まったところをやっと一枚撮ったと思ったら、ヒラヒラと飛び上がって向こう岸へ行ってしまった。なかなか思うようには撮らせてくれない。

カワトンボ-35.茶色の羽を持つカワトンボ

写真を撮りながらトンボの様子を見ていると、時々大きな目をグルグルッと動かしている。辺りを警戒して危険を感じたら逃げるためだろうか。そのようでもあり違うようでもある。

違うかも知れないと思ったのは、トンボに気付かれないよう物陰に隠れてじっとして少しも動かないのに、トンボが不意に飛び上がり辺りを一周してまた元の所にとまる動作を繰り返すからだ。他のトンボが飛んできた時の動きは縄張り争いに違いないだろう。何も見えない時の動作は、何故? 私の目に見えない餌の小さな昆虫を補食する動作なのだろうと想像しているが、違うのかも知れない。

と、言うことでイトトンボを撮りたいとの想いは山口でカワトンボを撮ったことで、半ば満たされました。ゴールデンウィークも終わり海老名に戻ってから、カメラを持ち出す度にイトトンボを探しましたが、最初の出会いはそれから2ヶ月後、7月初めのこと相模原の釣堀跡地の池のある公園でした。その様子は又改めて日誌に書き留めることとします。

全てD200+サンヨン+1.4倍テレコン。手持ち撮影。

PS:ところで、この小川で気になるものを見ました。青色の宝石の様な光を放ちながら飛ぶ、つがいのカワセミです。例によって遠くの杭の様な物に留まり、カメラを構える間もなく川上に向かって飛び去りました。この後、何回かカワセミを探してこの川沿いに歩きましたが、目撃はその時1回限りです。山口に戻ったら近所でカワセミを撮れるのでしょうか、楽しみです。

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