黄色のターミナル連絡車両
成田空港を香港に向けて飛び立ったのは6月1日、もう2週間も前になる。香港を経由し広東省での出張作業のためで、香港・中国本土への出張はおよそ1年半振りになる。
早朝にアパートを出て2時間ちょっとで成田に着き、カウンターでチェックインを始めると、航空券を受け取けとった係のお嬢さんが、電話を掛け何かを確認している。電話を終え、にっこりと微笑みながら「エコノミーが満席なので、エグゼクティブにクラスアップになります。」とにこやかにお知えてくれる。
全くラッキーを当てたもので、機内での扱いはエコノミーとは雲泥の差があり、大げさに言えば「天国と地獄」程の差がある。搭乗手続きをてきぱきと済ませてくれたグランドホステスのお嬢さんが一段と美人に見えたのは何故だろうか。
出発機に手を振り見送る地上係員飛行機は747ジャンボで席は窓側で主翼の真上である。ピンと真っ直ぐに伸びた翼の向こうを眺めたら、ターミナルを繋ぐ電車が走っているのがみえる。然し、真下の景色は見えない。翼が邪魔をするからである。
乗客全員が席に着き、暫くすると、安全ベルトや荷物の収納についてのアナウンスがあり、搭乗機はターミナルを離れ誘導路へと移動を始めた。窓の外を見ていたら、3人の地上係員が一列に並び、こちらに向かって手を振り始めた。見送りと旅の安全を願ってくれているのだろうか。
おそらく、出発する飛行機を見送る度に毎回繰り返されているのだろうが、初めて目にする光景で、思わず小さく手をふってしまった。自分の反応に驚いて機内を見廻してみたが誰も気付いていないようで、ゆったりと椅子によりかかりくつろいでいる様子だった。
ターミナルを離れてからの待機時間もほとんど無く、離陸時の総重量が300トンを越すと言われるジャンボ機だが、身軽に飛び立ち暫くすると機内アナウンスがシートベルト着用のサインが消えたことを告げ、スチュワーデスがおしぼりを配り始めている。
しなる翼先窓の外、機体の下は一面の白い雲が埋め尽くしている。前縁と後縁が銀色、中央部が灰色の主翼が、白い雲とその上に拡がる紺碧空の境目に伸びている。
良く見ると、翼は途中から滑らかな弧を描いて飛ぶ鳥の羽のように上にしなっている。その時はじめて、翼のしなりは300トンもの重量支えているためだと気付いた。
そのままじっと翼のしなりを見続けていたのだろうか、スチュワーデスの優しい呼びかけに気付くと、食事前の飲み物を尋ねられていた。